心臓リハビリテーション部門
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2018.8.1
27

フレイルティ(虚弱)を回避せよ!
介護状態を避け、健康寿命を延ばすために

「フレイルティ」という言葉を聞いたことがありますか?「身体的活動能力が落ち、倦怠感が強くなる状態」を指し、日本では“虚弱”と訳されることが多くなっています。日本老年医学会は、フレイルティを「高齢になって筋力や活力が衰えた段階」と定義しました。医療のどの分野においても大きな関心事となっており、今や、国家的課題ともいえる問題です。

♥ フレイルティの定義

以下の中に、あなたに当てはまるものはありですか?

  • 横断歩道を青信号の間に渡りきることが困難
  • 未開封のペットボトルのふたを開けるのが困難
  • ダイエットや運動をしていないのに、1年間で4.5㎏以上体重が減った
  • 1か月前よりも自宅の階段を1階から2階まで上がるのが明らかにつらくなった
  • 日課の散歩や買い物に出かけなくなった

5項目のうち、3項目以上が当てはまれば“フレイルティ”、1-2個が当てはまれば“準フレイルティ”と判断されます。これは、Friedらの提唱した“フレイルティの定義”2)に基づく設問です。他にも基準はいくつかあり、未だコンセンサスは得られていません。

Friedらによるフレイルティの定義:

「①移動能力の低下、②握力の低下、③体重の減少、④疲労感の自覚、⑤活動レベルの低下、の5つのうち、3つが当てはまる状態」

以下に、各項目について詳しく述べます。

  1. 歩行速度の低下:横断歩道は、歩行速度1.0m/sで渡り切れるように青信号の時間が設定されています。0.8m/sに満たない歩行速度では、活動能力がかなり落ちていると言えます。
  2. 握力低下:男性26㎏未満、女性18㎏未満が、これに相当します。握力15㎏以下になると、ペットボトルを開けるのが困難になると言われます。握力低下は、寿命の長さに直結するといわれるほど、重要な目安になります。
  3. 急激な体重減少:理由もなく1 年間で 4.5 kg 以上減少することは、たいてい脂肪よりも筋肉が減っていることが多く、以前ご紹介したサルコペニアに相当するかもしれません。
  4. 易疲労性:“疲れやすさ(易疲労性)”はフレイルティの典型的な症状です。
  5. 活動レベルの低下:今まで行っていた活動がおっくうになること、しばしば行っていた場所に行かなくなることが、フレイルティを判断するきっかけとなる場合があります。

表1

♥ あと戻りできなくなる前に・・・

フレイルティ(虚弱)とは、図1のように“健康”と“身体機能障害”の間に位置する概念です2)

図1

完全な身体機能障害の一歩手前ですが、フレイルティはまだ“健康”に戻る可能性が残されている状態です。そして、いったん“障害”の方に入ってしまえば “健康”に戻ることは困難になります。まずは、フレイルティに陥らないようにすること。一時的にフレイルな状態になっても、“障害”ではなく“健康”の方に戻す努力をすること。これらが、医療や福祉に求められる重要な役割であり、医療の究極の目的である“健康寿命”を伸ばすことにつながるカギとなります。

もっと知りたい方へ

心不全増悪予防に欠かせない、フレイルティ(虚弱)の防止

高齢者では、活動の低下により筋力低下や筋肉の質・量の変化が生じるといわれ、1週あたり1-2割の筋力低下が起こるという説もあります。この計算によれば、1週目で20%、2週目で40%、3週目で60%も低下・・・?恐ろしいことになります。

また健康な若者(平均23歳)と高齢者(平均68歳)を対象に行ったVigelsoらの調査では、2週間の臥床後、筋力は若者で28%、高齢者で23%低下し、もとの体力を取り戻すのに3倍以上の時間を要することがわかりました3)

■ フレイルティになれば心血管リスクは増大!

身体活動が低下すれば、食欲もなくなり、エネルギー代謝も衰え、からだの機能を維持することが困難になります。上述のVigelsoらの調査では、長期間ねたきりでいると、心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液の量)が3日間で約2割、3週間では約3割も減ることもわかりました3)

フレイルティが進むと、心血管系のリスクが高まるという報告もあります。Sergiら4)は、もともとはフレイルティではない65~96歳の高齢者1,567人を4.4年間追跡し、その間に新たにフレイルティとなった場合の心血管疾患の発症リスクを検討しました。

フレイルティの徴候として

  1. エネルギー消費の低下
  2. 疲弊
  3. 歩行速度の低下
  4. 状態および
  5. 理由のない体重減少

の5項目を挙げ、当てはまった項目の数と発症リスクの関係を調べました。全部で551人が心血管疾患を発症し、図2のように、要件がゼロ、1つ、2つと増えるごとに、心血管イベントリスクは増大しました。

図2

このように、身体的な活動の低下が心血管疾患をも引き起こすことがあります。内分泌系や自律神経系への影響も知られています。

■ フレイルティの悪循環

図3は「フレイルティ・サイクル」と呼ばれるものです5)

図3

「低栄養状態の持続⇒サルコペニア(筋肉減少)が進行⇒筋力低下⇒活力や身体機能低下⇒活動度低下⇒エネルギー消費の低下⇒フ食欲低下⇒低栄養状態がさらに持続⇒・・・」と巡り、結果的に負のスパイラルに陥っていきます。しかし、影響はそれだけにとどまりません。

高齢化社会の到来とともに、様々な病気やけがを抱え、複雑な病態に陥りやすく、その分悪循環から抜け出すことが困難になります。活動性が低下すれば認知機能低下や抑うつをきたしやすく、さらに社会から孤立し、孤独や経済的な問題を抱えるリスクが増大します。このように、フレイルティ・サイクルの背景には身体的・社会的・精神心理的要因が複雑に絡み合っているのです。

■ フレイルティを避け健康寿命を延ばすには

フレイルティ・サイクルに陥らないために、普段から心がけることを列挙します。

  1. 十分なたんぱく質、ビタミン、ミネラルを含む食事を、日頃から心がける。
  2. ストレッチ、ウォーキングなど、適度な運動を定期的に行う。
  3. やみくもに活動するだけでなく、疲労回復や休養の時を意識して取る。
  4. 日々の健康状態、身体活動量や認知機能を定期的にチェックする。
  5. 感染予防をしっかりする。
  6. 自分の飲んでいるお薬や治療について自分なりに把握する。わからないことは、医師や医療スタッフに相談する。
  7. 手術や大きな病気・怪我の後は、栄養やリハビリなど適切なケアを。

月並みなことですが、これらの生活習慣を見直し、整えていくことが、健康寿命を延ばす第一歩といえるのです。

参考文献:

  1. Fried, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001; 56: M146─56
  2. 山田ら、京府医大誌2012; 121(10),535~547.
  3. Vigelso, et al. J Rehabil Med 2015; 47: 552–560.
  4. Sergi, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;65(10):976-83.
  5. Xue QL, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2008; 63: 984─90.